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福岡高等裁判所宮崎支部 平成元年(う)38号 判決

所論は,被告人Seにおいて,被告人Tb及び被告人Saに対し嘘の両建勧誘を指示したことも,同被告人らが行う嘘の両建勧誘を容認していたこともなく,また,被告人Se自身が過去に右のような両建勧誘を行ったということもないのであって,原判示のような共謀の事実はない,のみならず,「当該顧客に対して両建勧誘をするにつき嘘をつく。」との特定の犯罪を行うことの指示又は謀議をしていない者について共謀の成立を認めることは明らかに判例理論(最高裁大法廷昭和33年5月28日判決)に反する,と主張する。

そこで検討するに,これまで見てきたところによると,K支店支店長代理である被告人Tbの,原判示別紙(一)一覧表番号1ないし7の被害者Krら7名及びK支店の顧客Tm,同Fgに対する両建(売建)勧誘,並びに同被告人を継いで同支店長代理に就いた被告人Saの,右一覧表番号9の被害者Fz及び同支店の顧客Kwに対する両建(売建)勧誘は,同人らの買玉に大幅な値下がり又は買値より値下がりしている事実がないのに,そのような事実がある旨虚偽の相場を告知したうえ,追加保証金が必要になる事態が切迫していて早急に手立てを講じないと預託してある委託保証金を失ってしまうほか多額の損害を被る虞があると申し向け(ただし,Hについては追加保証金の点を除く。),両建にすれば損金が一円も拡がらないなどと説明して新たに売建をして両建にすることを勧め,買玉とは異なる限月(概ね期近)物について売建をさせ,損覚悟で決済を求める顧客に対しては,売りが殺到していて注文が通らないなどと言って手仕舞いを拒否するという点において共通した特徴を有しているところ,当審において取り調べた録音テープ(当審検察官請求証拠番号28),約定値段表,Ke(以下「Ke」という。)のイタカンによれば,同人は,昭和57年3月16日午前中の時点において,82・7月限の買玉合計4枚(うち新規買建分の2枚の買値は114.80ドルで,他の2枚は同年2月17日に売建をした玉を同年3月4日に買い落ちしたあと翌5日に再度売建をした玉を同月12日の前場一節で買い落ちするとともに買いに回った,すなわち途転による買玉で,それの買値は109.60ドル)を有していたものであるが,同限の昭和57年3月12日の前場二節以降の値動きをみると,同節は109.60ドル,後場一節,二節はともに109.40ドル,同月15日の前場一節,二節はともに107.40ドル,後場一節,二節もともに107.20ドル,同月16日の前場一節は108.80ドル,前場二節は108.20ドルと推移しているのであって,同節の値段を基準にすると,Keの買玉4枚の平均買値112.2ドルから4ドル値下がりしている状況にあるところ,被告人TbにおいてKeに対し,同日の後場一節の立会いが始まる前に電話で「値段が反対にきた,下がりました。シカゴの方が10何セントポーンと下がって(香港市場でも)急な下げがきた。」旨香港市場において急激な値下がりがあったことを告げたうえ,「私ではどうにも出来ないので店長の話しも聞いてください。」と言って被告人Seに電話を代わり,これを受けた同被告人においてKeに対し,「値段が108ドルを今正に切らんとしている,ほぼ追証と同じ状態になってきている。一時的な下げではあるが,今回の下げはあまりにもおかしい。極端に下がっている。先程Tb君から話しを聞いたが,Tb君も思惑が外れてどうしようも出来ないということだと思う。かかってくるとすれば追加保証金は現在四十数万から五,六十万の間だと思う,今の状態で放置しておけば当然明日の午後2時までに追加保証金が請求されるわけです。これはどうしても避けたい。」などと説明し,Keが売って決済すればどうなるのかと聞いてきたのに対しては,「大きな損害が出てくる,60万くらいの損害が出てくるのでは。今値段が暴落しているから売物が通るか分かりません。万一売れない場合は追加保証金がかかりどうしようも出来なくなる。両建するしか方法がなかろうと思う。」などと申し向けて再度の両建勧誘をしていることが認められ,これによれば,被告人Tbの言う「急な下げがきた。」,被告人Seの言う「今回の下げはあまりにもおかしい。極端に下がっている。」「暴落している。」というのはいずれも事実に反する虚偽相場の告知で,しかも両被告人が異口同音に右のように申し向けて両建勧誘をしているのであって,両被告人間には相場について嘘を言うなどして両建勧誘をすることについて少なくとも暗黙の了解があることが窺われること,更に右テープによれば,被告人Seが電話で氏名不詳の顧客に対し新たに建玉することを勧める際,同顧客が「(建玉は)一応このままおいてくれ。」と申し出ているのに対し,「時間がないんです,このままおいておいたら追証いきますよ,追証かかったら入れて貰えますか。」と言って責め立て,同人が追証は入れられない旨返答するや,「入れられなかったら大変なことになる。これは国際的なルールなんです。それを破ると大問題になる。」などと繰り返し強調していることが認められ,被告人Seにおいて顧客が先物取引に明るくないことに乗じて,国際的なルールなどではなく単にP貿易の顧客に対する取引上の請求権に過ぎないのに,さも国際的なルールで違反すると大問題になるなどと大袈裟に申し向けて,顧客をして自己の勧める手立てを取ることを承諾させようとしていることが認められること,また,Sz,Yg,H及びDの各原審証言によれば,同人ら4名はK支店との本件先物取引の継続中に担当者である被告人Tbに対して,Szの場合には,一銭も損はさせない,儲かると言っていたのに暴落したと言って両建にさせられたことで話しが違うではないかとSzが抗議したところ,担当が代わるということで,Ygら3名の場合には,いずれも被告人Tbから値段が下がったことなどを理由に両建勧誘を受けた際,Ygらにおいて建玉の決済を求めたところ,同被告人では判断ができないといった理由で,それぞれ担当が被告人Seに代わり,同被告人からも被告人Tbと同様のことを言われて両建(売建)勧誘を受けていることが認められるほか,Tbノート①②によれば,初めに被告人Tbが顧客に対し両建や買増しを勧誘し,途中で店長(被告人Se)と交代して同様の勧誘を続けてそれらを承諾させたりしていることが明らかであり,これらによれば,K支店における顧客管理は,一応支店長と同代理が各別に担当する顧客を決めて日常の管理に当たっていたといっても,必要がある場合は,支店長が随時介入して同顧客に対する以後の管理を行っていること,さらに,当審において取り調べた録音テープ(当審検察官請求証拠番号24),約定値段表,Ma(以下「Ma」という。)のイタカンによれば,同人は,昭和57年6月9日の前場一節において82・11月限10枚の買建(113.60ドル)をしているものであるが,同限の昭和57年6月9日前場二節以降の値動きをみると,同節は買値と同じ113.60ドル,後場一節は113.00ドル,後場二節は112.80ドル,同月10日は高値112.80ドル,安値112.60ドル,同月11日は高値113.20ドル,安値112.80ドル,同月14日は高値114.60ドル,安値113.60ドル,同月15日の前場一節は113.80ドル,前場二節,後場一節ともに113.60ドル,後場二節は113.80ドル,同月16日の前場一節は113.60ドル,前場二節は113.40ドルと推移しているのであって,同節の値段を基準にすると,Maの買玉は買値より0.2ドル値下がりしているに過ぎないところ,被告人SaはMaに対し,同日の後場一節の立会いが始まる前に電話で,買玉の値段が下がり,追加保証金がかかる可能性がでてくることや,同玉を売りに出しても値段が下がった段階では売り物が多く,売れない可能性が出てくる,そうすると追加保証金という可能性が出てくる,しかもこのお金は市場に入金しないといけないものである,もし買玉が売れなかったら追加保証金を入れてくれるのかと迫るなどして両建(売建)勧誘をしたのに対し,同人が損しても構わないから買玉を売りに出して決済することに固執したばかりか,追加保証金は出さないと言って被告人Saの勧めに頑として応じようとしなかったことに業をにやした末,支店長と代わると言って被告人Seと電話を代わったこと,及び,被告人Saを引き継いだ被告人SeはMaに対し,被告人Saと同様に両建にすることを勧め,更に「今回だけは急激な下げだっただけに今回までは歯止めさせて下さい。一昨日値段は1回上がったのだが,その段階では手数料分がやっとこさ取れる程度だった,私は店長です,ここの責任者ですから,紙に一筆書いていいと言ってるでしょう。これが嘘でしたら私御用ですから。この方法をしとかんと知りませんからね,あとで500万入れても,1000万いれても。追証入れん場合損金が何ぼ出るか知らんということですよ。30分後に三百数十万の資金を用意しなければらない羽目に陥る虞もあるわけですよ。」などと脅迫まがいの言辞まで弄して結局Maをして両建にすることを承諾させていることが認められ,被告人Saが,売りが通らないことを理由にして手仕舞いを拒否する点は同Tbの場合と同様の特徴を有していると言えるばかりでなく,Maの買玉の値段が下がり追加保証金がかかる可能性が出てくるとか,追加保証金は市場に入金しなければならないものであると言っていることも,被告人Seが「今回だけは急激な下げだった,追証入れん場合損金が何ぼ出るか分からない。」と言っているのも,いずれも事実に反するものであり,虚偽相場を告知し,追加保証金を持ち出して両建を迫るなど被告人Se,同Saが異口同音に同様のことを言って両建(売建)勧誘をしていることに徴して,右両被告人間には相場について嘘を言うなどして両建(売建)勧誘をすることについて少なくとも暗黙の了解があることが推認できること,さらに,司法警察員作成の昭和63年6月8日付録音テープの再生報告書(原審における検察官請求証拠番号857),約定値段表,Ty(以下「Ty」という。)のイタカンによれば,同人は,昭和57年4月13日の後場一節において82・9月限5枚の買建(115.40ドル)をしているものであるが,同限の同後場二節から以降の値動きを見ると,同節は114.60ドル,昭和57年4月14日は高値115.20ドル,安値114.40ドル,同月15日は高値114.80ドル,安値114.40ドル,同月16日は高値114.40ドル,安値113.80ドル,同月19日は前場一節,二節ともに114.40ドル,後場一節,二節はともに114.60ドル,同月20日の前場一節は114.00ドルと推移しているのであって,同節の値段を基準にすると,Tyの買玉は買値より1.4ドル値下がりしているところ,K支店の氏名不詳営業社員はTyに対し,同日の前場二節の立会いが始まる前に電話で,「買玉の値段が下がり,計算上の損が半分近く出てきている。もう一つ値段の下げが来れば当然損が出る。損を食い止める方法として両建があり,追加保証金も食い止めることが出来る。今はセリの時間が迫っていて,午前中のセリに売り物を出せんかったら追加保証金の可能性が大である。」などと申し向けて両建(売建)勧誘をし,Tyが決済を求めるのに対しては,「もし売りが通らなかったらどうするのか。」と言って脅し,同人が更に「Mnさんはそんなこと言ってなかったですね。」と抗議すると,「冗談じゃないですよ,私の部下が,社員がそんなことを言う筈はありません。」と否定したうえ,「8月,9月,10月の辺りが,値段が急落場面にきているから,午前中のセリに出さんかったら追加保証金の可能性が大である。このお金は次の日の午前中までに市場の方に委託しなければならないと契約書に明記してあるでしょう。」などと言って両建(売建)を勧誘していることが認められ,これによれば,同支店の右営業社員が,被告人Tb,同Sa及び同Seと同様に虚偽相場を告知し,売りが通らないことを理由に手仕舞いを拒否するほか,追加保証金の可能性といった事柄を持ち出して両建(売建)勧誘をしていることが明らかである。以上を総合すると,K支店の支店長である被告人Seと同支店長代理であるところの被告人Tbないし被告人Saとの間には,新規買建するなどして取引を始めた顧客に対して両建(概ね売建)を勧誘するに当たっては,大幅に値下がりしているとか,買値より値下がりしているといった事実がない場合にあっても,そのような事態が発生していると相場に関して嘘をついてでも新たに建玉をさせて委託保証金名下に金員を預託させるという営業方針,顧客管理方針を共有していたというべきであり,これに,原判決が指摘している,K支店長である被告人Seは,同支店長代理の被告人Tb,同Saの直属の上司として両被告人を監督する立場にあり,したがって,被告人Tb,同Saは,被告人Seの意向に反する方法でその職務を遂行することは実際上出来にくかったところ,顧客に対し,相場は下がっておらずもとより追証のかかる状況でもないのにあたかもそうした状況であるかのように虚偽の情報を伝えて両建を勧誘するのは,その嘘が顧客にばれれば,会社の信用を決定的に失墜させかねないものであるだけに,このような危険な勧誘方法を,被告人Tbや同Saが上司である被告人Seの意向に反して勝手になし得たとは考えにくいところであり,被告人Seは,原審公判供述でも,上司である本社のYm常務から,時には日に数度電話があり,新規あるいは増玉の獲得にはっぱをかけられていたことを自認しており,同被告人が,やむなく違法な手段を行使してでも同支店の営業実績を上げようとする動機のあったことが窺われ,被告人Saや同Tbの相場値段を偽る欺罔行為は,被告人Seの意を体したものと考えるのが自然であることなどを併せ考慮すると,被告人Tbの前記Krら7名に対する両建(売建)勧誘,及び被告人SaのFzに対する両建(売建)勧誘はいずれも被告人Seとの事前の共謀に基づくものと認められるのであって,同被告人には右8名の被害者に対する詐欺(ただし,Fzについては詐欺未遂)につき共謀共同責任があるものといわざるを得ない。

そして,右のような継続的,組織的営業犯の場合にあっては,欺罔行為を構成するような営業方法ないし方針を取ることを共謀している者について,当該顧客に対して嘘をついて両建勧誘をすることの個別具体的な指示又は謀議がない場合(その事実が証拠上認定されていない場合)であっても,右顧客に対する詐欺ないし詐欺未遂罪につき共謀の成立を認めることは何ら判例に反するものではなく,所論引用の判例は事案を異にしていて本件に適切でない。

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